「或る授業」伊藤 一彦

「或る授業」伊藤 一彦

 母校の生徒に授業できるというのは幸福な体験である。そんな体験を去年の11月にさせてもらった。大宮高校の文情科の1年生80名が対象である。宮崎県記紀編纂記念事業推進室からの依頼で、次世代をになう子どもたちに宮崎県の神話・伝承・文学などについて関心と理解を深めてもらうという趣旨だった。私が適任かどうかわからないが、ありがたい機会なので2時間の授業をおこなった。

 授業内容は3つの柱をたてた。まず、宮崎を舞台にして県外の作家たちがどんな作品を書いているかといことを紹介した。松本清張『西郷札』、安田満『南洲先生大将服焼片』という宮崎での西南の役を描いたもの、武者小路実篤『土地』『或る男』とい新しき村に関わるもの、新婚旅行ブームを生んだ川端康成『たまゆら』、また宮崎出身の偉人を記した吉村昭『ポーツマスの旗』『白い航跡』や城山三郎『わしの眼は十年先が見える』など。生徒たちは宮崎が多く描かれていることに驚いたふうだった。続いて、『古事記』の日向に関わる神話を紹介した。身近な地名が出てくるので生徒も喜んでいたと思う。そして、最後に『古事記』に山幸彦と豊玉姫の恋の歌の贈答があることから、前もって生徒に作らせていた恋の歌をみんなで鑑賞・批評した。その一部を紹介しよう。

・気がつくと自分の癖になっていたふとしたときの君の仕草が

・好きな人聞かれて「いない」そう答え君消えてから「ばか」ってつぶやく

・水面にて唇寄せあう赤と黒こいの心を僕は知らない

・いつだって視線の先に君がいて振り向かないで でも気がついて

ほんの一部ですが、名作揃いだったことがおわかりでしょう。

伊藤 一彦

宮崎県宮崎市生まれ、在住。宮崎県立宮崎大宮高等学校、早稲田大学第一文学部哲学科卒業。学生時代に同級の福島泰樹のすすめで短歌をはじめ、「早稲田大学短歌会」に入会。三枝昂之らと知り合う。 大学卒業後は帰郷し、教員のかたわら作歌活動を続ける。郷土の歌人若山牧水の研究者でもあり、若山牧水記念文学館長、「牧水研究会」会長を務める。同会が編集する『牧水研究』の第8号は2011年に第9回前川佐美雄賞を受賞した。 1996年、歌集『海号の歌』で第47回読売文学賞詩歌俳句賞。2005年、歌集『新月の蜜』で第10回寺山修司短歌賞。2008年、歌集『微笑の空』で第42回迢空賞を受賞。2010年、歌集『月の夜声』で第21回斎藤茂吉短歌文学賞を受賞。2009年より読売文学賞選考委員。 堺雅人は宮崎県立宮崎南高等学校での教え子。堺は牧水を愛読するなど文学的に多大な影響を伊藤から受けており、現在も恩師と慕っているという。2010年には共著『ぼく、牧水! 歌人に学ぶ「まろび」の美学』を刊行した。