実況中継風随想「宮崎国際音楽祭」青木賢児
おとといの宮崎空港で、昼頃にチェリストのミッシャ・マイスキーを見送り、午後にはヴァイオリニストのピンカス・ズーカーマンを出迎えました。現代世界を代表する音楽家が宮崎空港ですれ違いに出入りする場面に立ち会いながら、空港ビルから見る風景の中に、なぜか少年の頃の思い出が蘇ってくるのを、不思議な感覚で楽しんでいました。
今から思い起こすと67年ほど昔になるでしょうか、中学一年に入ったばかりの頃、ここは赤江の飛行場と呼ばれて海軍特攻隊の基地でした。零戦や呑龍と呼ばれる特攻機が並ぶ中で、滑走路の拡張工事にかり出されていました。ひと抱えもある石を並べる作業は、子どもたちにはなかなかの重労働でした。
そんな思い出がよぎる空港は、今では国際空港にもなっていて、宮崎の世界に広がる窓口になっています。
ミッシャ・マイスキーによる、バッハの不朽の名作「無伴奏チェロ組曲」演奏会は、拍手が鳴り止みませんでした。今夜は巨匠ピンカス・ズーカーマンによる「夢のヴァイオリンリサイタル」です。19世紀が生んだ大作曲家、シューマン、フランク、ブラームスのヴァイオリンソナタ名曲演奏会。去年のザルツブルク音楽祭で、絶賛を浴びたリサイタルの再現です。
明日の「巨匠が奏でる名曲のフィナーレ」を最後に、20日間にわたる第18回宮崎国際音楽祭は閉幕します。巨匠たちは皆、名残惜しそうに宮崎を去っていきます。
青木 賢児
(宮崎県立芸術劇場理事長、大宮高校同窓会会長)
1932年宮崎市生まれ、1951年宮崎大宮高校卒
1957年東京大学仏文学科卒、NHK入局、1982年NHK報道番組部長
1991年NHK専務理事(放送総局長)、NHK交響楽団理事長
1996年宮崎県立芸術劇場理事長兼館長、宮崎国際音楽祭総監督
受賞歴、日本新聞協会賞、宮崎日日新聞特別賞、宮崎県文化賞、新日鉄音楽賞特別賞